僕たちは壁のなかの一個のレンガだ
ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』というアルバムを先日の不適応者の居場所でいち推ししたのだが、言葉が足りなかったので、あらためてここに書いておきたくなった。自分の人生において、とてつもなく大きな作品だ。
このアルバムは79年に出た、ピンクフロイドの歴史のなかでは、現役時代の最後のほうの代表作になる。アルバムが2枚組なのに全米1位になったのはまあ驚いたが、シングルの『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール』も、全米1位を4週間も続ける大ヒットになった。この曲は日本のラジオでもよくかかっており、ラジオ中毒だった10代の自分の耳にも入ってきた。「結局僕たちは、壁のなかの一個のレンガじゃないか!」と歌っているのだ。しかも子供に合唱させている。この言葉は『完全自殺マニュアル』の前書きのなかにも書いた。そこの見出しには、この曲のタイトルをわざわざ載せた。当時、こんな歌詞の曲が全米1位になるなんてありえなかった。ヒット曲はもとより、ロックの歌詞もまずは恋愛。あの娘がかわいい、ふられた、そんなくだらないものばかりだった。恋愛以外の悩みを歌っているだけでも価値があったが、この曲やアルバムに込められた怒りの対象は、結局親でもなく、教師でもなかった(親や教師は出てくるのだが)。何かと言うと、「システム」だった。自分が欲しかったのは、そういうものだった。ロックの歌詞なんて、本当に共感できるものは少なかったのに、この曲には本当の自分の「悩み」と呼べるものが歌われていたのだ。こんなテーマを曲にして、しかも全米1位に送り込ん…