自由貿易

シアトルでの反WTO.jpg「米国との間で、自由貿易協定(FTA)の交渉を促進し、貿易、投資の自由化を進める」──民主党マニフェストより


民主党が“締結”するとか、やっぱり“促進”するとか宣言している日米FTA(Free Trade Agreement)に対して、日本の農民から猛烈な反対運動が巻き起こっている(註1)。

この協定が結ばれれば、アメリカからの農作物がますます入ってきて、日本の農家に一層の打撃を与え、さらに食糧自給率を押し下げるからだ。アメリカはコメや乳製品まで例外ではないと言っている。

一体どうして、こんなに輸入食品が嫌われ、自給率を上げようという動きが生じている今、その流れに逆行することをやろうとするのか?

答は、自動車などの工業製品をアメリカに安く輸出したいからだ。日米FTAを急いでいる主な理由は、韓国がアメリカとFTAを結んだので、アメリカへの輸出で韓国の自動車産業などの製造業よりもよりも日本が不利な立場に置かれるのが許せないからだそうだ(註2)。また自動車のためか!(註3)

もちろん自民党は、戦後こういう政策を進めて日本の農業をダメにしてきた張本人だし、今でもオーストラリアとのFTAを進めていて、同じく農民からの猛烈な反対を受けている。今、自由貿易にちゃんと反対できているのは、残念ながら社民党と共産党だけだ。



サパティスタ民族解放軍が94年に蜂起したのも、このFTA(北米自由貿易協定=NAFTA)に対してだった。メキシコ最貧州・チアパスでの先住民によるこの反乱は、今でも世界中から多くの支持を集めている。

FTAは二国間か数国間での自由貿易協定で、WTO(世界貿易機関、World Trade Organization)という自由貿易を推進するための世界機構を補完する制度だ(註4)。そのWTOの99年シアトルでの会議への7万人の抗議行動は、反グローバリゼーション運動を一気に表舞台に登場させた画期的なものだった。



そのくらい自由貿易は、世界中で反感を買っているのだ。

「海外に売れるものだけ作って、そのカネで食糧など必要なものを買えばいい」というWTO/自由貿易主義の理屈は、結局うまくいっていないし、そういう状態がいかに望ましくないかは、我々の感覚でもわかるはずだ。日本だって、第一次産業を捨てて工業製品作りに特化してきたんだから。

そうすることのデメリットは数え切れないくらいあるが(註5)、最大のデメリットは、「カネがないと生きていけない/カネさえあれば生きやすい」世の中が進むことなんじゃないかと思う。



「貧困は、金銭を持たないことにあるのではない。金銭を必要とする生活の形式の中で、金銭を持たないことにある。」(註6)


(註1)日米FTAは日本農業を崩壊させる 断固阻止緊急国民集会開く(農業協同組合新聞)

http://www.jacom.or.jp/news/2009/08/news090812-5659.php

(註2)参考:鈴木弘「自由貿易協定推進における長期的視野の必要性」


http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/epa_sy0803/pdfs/ss05.pdf


鈴木宣弘「日米FTA(自由貿易協定)をどう考える」 『しんぶん赤旗』09年8月11日


(註3)民主党の売りである高速道路の無料化なんて、自動車なんか買えないより貧しい人たちには何のメリットもない話だ。

(註4)ちなみにFTAによく似たWTOを補完するものとして、まったくややこしいが、EPA(経済連携協定 Economic Partnership Ageement)というのもある。FTAに人的交流や投資など一般の貿易以外の要素も加えたものとされる。

例えば去年締結された日本とフィリピンの間のEPA(JPEPA、ジェーペパ)では、貿易の自由化拡大に加えて、日本のゴミをフィリピンに輸出し、フィリピンからの看護師と介護師を受け入れるというとんでもない内容が盛り込まれ、フィリピンで批判が巻き起こった。それに反対するフィリピンのアクティビストも来日している。 


JPEPA info http://jpepainfo.wordpress.com/

(註5)例えば農業では国際市場での競争に勝つため、自給用作物を放棄した大規模な単一栽培や、大量の農薬や遺伝子組み換え品種の使用などが進む。そんなことをうまくやったヤツばかりが、世界中に進出して一人勝ちし、格差を拡大させることになる。輸送に使う莫大なエネルギーの浪費も問題。

(註6)見田宗介『現代社会の理論』(岩波新書)より

写真は99年のシアトルでWTOに反対する人たち