我々はアジアにゴミを輸出している

中国・貴嶼でのケーブル処理.jpg廃品回収車が無料で引き取った製品の多くが、アジア諸国へ輸出されると見られているとは知らなかった(註1)。

日本ではペットボトルも、500ミリリットルの容器(約30グラム)にして年間200億本分(!)も作られているが、廃ペットボトルの半分近くが中国へと輸出されているのも知らなかった(註2)。

我々が新商品を見たり作ったりするのと同じ熱心さで、ゴミのことも見ていれば、大量生産・大量消費を肯定するなんてことにはならないはずなのだ。


例えば、中国の香港に近い沿海部に貴嶼(グイユ)という町がある。

ここは世界最大の電子電気ゴミ(E‐waste)の処分場になっていて、手作業でテレビやパソコンや携帯電話が分解され、カネ目の金属や部品が取り出されて、残骸は野焼き・野積みされることも多い。環境と健康への害は深刻で、検査を受けたここの子どもの8割以上が鉛中毒になっていた。


貴嶼でのキーボードの処理.jpgさらに日本ではほとんど知られていないが、日本はフィリピンなどの東南アジア諸国とEPA(経済協力協定)を結んで、有害ゴミの輸出関税を削減・撤廃しようとして、各地で猛烈な反対運動を巻き起こしている(註3)。

つまり、アジア諸国から資源や製品を輸入し、ゴミを送り返すというとんでもないことをやっているのだ、この国は(日本とアジア諸国の関係は、世界の「北」と「南」の関係に置きかえてもいいかもしれない)。

それなのに地デジ移行で最大6400万台のテレビが捨てられることを(註4)、国も経済界も奨励しているのだ。文句を言わないほうがどうかしている。

もちろんリサイクルも大事だが、もっと根本的な解決策は、こういう自分たちの儲けのために大量に作っては売り込んでいる側を止めることだ!

──とかいう記事を、今出ている『オルタ』9・10月号に書いた。

『オルタ』09年9・10月号 「もうたくさんだ!vol8 ゴミはどこへ行くか?」


貴嶼での電子基盤処理.jpg日本(あるいは「北」の国々)に住む我々には、「大量生産 ⇒ 大量消費」としか見えないプロセスも、本当は「(資源の)大量採取 ⇒ 大量生産 ⇒ 大量消費 ⇒ (ゴミの)大量廃棄」という一連の流れなのだ。

この流れも始まりと終わりを見れば、ちゃんと自然界に含まれていることがわかる(我々の身のまわりにある人工物も、すべて元は自然界から採ってきたもので、かつ簡単に自然界には還らない)。そのことがわかっていれば、こんなことはいつまでも続けられないのは明らかだ(註5)。
またこの始まりと終わりは、「南」の国々に押しつけられることが多く、そこで環境破壊や健康被害や搾取が起きているが、それも同時に見えなくなっている(最近では「大量生産」の過程までもが「南」の国々に輸出されて、我々に見えているのは「大量販売 ⇒ 大量消費」のみになりつつあるとも言える)。

そして、これを推し進めているのが「グローバリゼーション」というやつだ。

 

貴嶼での携帯電話の処理.jpgちなみに、中古品のやり取りは生産活動を伴わないことになっているので、GDPには算入されない。けれども、それをすべて壊し、膨大なエネルギーを使ってリサイクルすれば、GDPに算入され経済は成長する(註6)。
これを見ただけでも、「GDPの増加や経済成長がいい」だなんて言えないことは明らかだ。まずはこの“神話”をなんとかすることだ。


(註1)廃家電、アジアむしばむ(朝日)

(註2)中国に流れる廃ペットボトル 日本のリサイクル危機に(産経)
(註3)本当に一番押し付けたいのは、“放射性廃棄物”だろうと思う。

(註4)地デジ移行で最大6400万台のアナログテレビが処分―JEITAが予測(ただしこの団体は電子工業の業界団体)
(註5)参考:『現代社会の理論』(見田宗介、岩波新書、1996)

(註6)メーカーは新品が売れなくなるので、中古市場が発達して商品のライフサイクルが伸びることに不快感を示している。

参考映像:「中国、インドでのe-waste解体労働者の現状」(グリーンピース・チャイナ作。ページの下のほうにある。英語だが映像だけでも見ごたえがある)

写真はすべて中国・貴嶼のもの。上から順に、ケーブル、キーボード、電子基盤、携帯電話が手作業で処分されている。

追加必見映像:The Story of Stuff(モノの話)日本語版 (”採種”から”廃棄”までの物質経済の流れを、裏の仕組みとともに解説した世界的な話題作。環境面から見た批判が多いが、10分目あたりから始まる”消費”の説明では、計画的陳腐化、心理的陳腐化についても解説している。)