今や、日本で主に農業による収入で生活している人の平均年齢は、64.2歳にもなる。普通の企業なら、もう定年退職している年齢なのだ。06年に農業を継いだ人は、医者になった人6300人よりも少ない、5000人未満だった。このままでは、10年後には日本の農業は終わってしまうと警告されている(註1)。
なぜこんなことになるのかというと、もちろん輸入農作物が入りすぎているからだ。それで食べていけないのなら、当然就業する人もいなくなる。
例えば大豆なら、関税を撤廃した70年頃から、自給率は大体5%くらいまで下がっている。今の最大の敵は、アメリカのモンサント社が作った遺伝子組み換え(GM)大豆だ。
モンサント社は、有毒化学物質PCBと枯葉剤を作った化学会社として知られるが、今では強力な除草剤とそれに耐性のあるGM作物を作って、セットで世界中に売りまくっていることで悪名が高い(註2)。
こういうやり方と政府からの巨額の補助金で安くなった大豆が、日本が自動車などの輸出を有利にしたいがためやっている果てしない関税引き下げと相まって、流れ込んできている(註3)。「遺伝組み換えでない」大豆による味噌、醤油、豆腐、納豆を選んでいても、植物油、マーガリン、マヨネーズ等々の「油」として、モンサントのGM大豆は我々の口にも入っているはずだ(註4)。
デトロイトでは、自動車工場が海外に移転して人がいなくなった跡地を無断で耕してしまう、“ゲットー・ガ-デン”が広がっている(註5)。自動車産業なき後、自分たちで食べ物を作ることにしか未来はない、という気持ちからだという。
自分も去年、友人が空地を開墾して作った畑で、大豆を大量に作って食べた。面白かった。自分たちが食べるものを自分たちで作るのは、当たり前のことなんだろうが、とても面白い(註6)。
こういう実感を奪われてもなお、我々はアメリカやアジアに売る自動車を作りたいのか? 自分の食べ物の作り方も知らない国民でいいのか? それは我々の生きる実感を奪ってないか!?
──といった風な記事を、今出ている『オルタ』09年11‐12月号に書いている。
「もうたくさんだ! vol9 大豆と日本の農業の未来」(諸事情により連載は今回で終了です)
94年にメキシコ先住民のサパティスタ民族解放軍が蜂起したより直接的な原因は、北米自由貿易協定によって、安いトウモロコシがアメリカから流れ込んでくることだった。トウモロコシの原産地に生きてきた「トウモロコシの民」である彼らは、これでは死刑宣告を受けたも同然だったのだ(註7)。
それなら主食の米に、味噌や醤油で味付けした副食を食べてきた「米と大豆の民」である我々も、黙っていることはないと思う。置かれているいる境遇は同じだ。
(註1)山下惣一「グローバリゼーションと日本農業の道筋」(『儲かればそれでいいのか』所収)他
(註2)しかもモンサントはGM種の特許権まで取って、農家が自ら種を採って翌年に蒔くことを「特許権の侵害」として禁止し、毎年膨大な量の種を買わせている。
(註3)相手の関税を下げさせるためには、当然自らの関税も下げなければならない。日本の農作物の平均関税率は12%で、アジアでは最低、世界でも最も低い部類に入る。ちなみに韓国は62%、EUは20%。日本の農業は甘やかされすぎている、などと言われるが、事実はその逆だ。
(註4)日本でも大豆の75%は搾油用に使われ、搾りかすは家畜の飼料に使われる。もったいないと思う。
(註5)参考:デトロイト/貧困救う空き地農業(日本農業新聞)、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ+辻信一 『いよいよローカルの時代』 (大月書店)、他
(註6)ちなみに、ガンガンサツマイモを抜いて、ガンガン火を焚いて、片っ端から焼芋にして食べたのも面白かった。⇒VEGEしょくどう日誌
(註7)参考:『VOL lexicon』(以文社)
関連日記:グローバル企業は種も独占する
写真は、イスラエルで遺伝子組み換えによって生まれた、羽のない食用ニワトリ「モンスター」。このほうが羽を剥く手間が省けていいのだそうだが、どうかと思う。