バブル崩壊はなぜ起きるのか?

アジア通貨危機に見舞われた国々.png金融だの投資だのマネーゲームだののことなど本来なら考えたくもないが、どうやらこれをなんとかしないと、我々の生きやすい社会もまたないことになってるらしい。

例えば97年にタイに始まり、マレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国などの国々の通貨が次々に暴落して、経済を破綻させる「アジア通貨危機」という大事件があった。そのきっかけを作ったのが、ジョージ・ソロスという世界一有名な投機家のファンドをはじめとするヘッジファンド(註1)だった。

これらのヘッジファンドは、97年の5月にタイ通貨・バーツに一斉に“売り”を浴びせ、暴落したところで買い戻して利ざやを荒稼ぎする“空売り”(註2)を仕掛けたのだ。その結果タイ、インドネシア、韓国では財政が破綻してIMFからカネを借り入れるハメになった。タイの首相とインドネシアの大統領は失脚し、マレーシアの首相は名指しでジョージ・ソロスを非難した。この通貨危機は98年以降ロシアから、ブラジル、トルコ、アルゼンチンにまで及んだ。

ただし投機家の力だけでは、こんな大きな事態を引き起こせるものではない。彼らはその引き金を引いただけだ。

これらの東南アジア諸国は、この頃バブルの状態にあった。それは金融の自由化政策によって海外から投資マネー(註3)が流入した(つまり海外からカネを借りまくった)ことがら始まった。マネーが流れ込んでいると、貿易が赤字でも見かけ上は、経済が順調に行っているように見える。そして投資家(投機家)がもうそろそろバブルがはじけると見込んだ時、このマネーを一気に引き上げ(つまりカネを貸すのをやめ)、経済は破綻し、倒産、リストラ、失業が相次いだわけだ。この後、経済建て直しのために、IMFの構造調整プログラム(小泉・竹中の構造改革みたいなもの)を受け入れた国では、更なる規制緩和と社会福祉などの財政の切り詰め政策が取られた(註4)。
このおびただしいマネーの流入と流出こそが、80年代以降世界で頻発した経済危機の主な原因なのだ(註5)。

タイ・バンコクの建設放棄ビル.jpgまったくややこしい話で、勝手にやってろと言いたくなるが、これは残念ながら我々の人生に直接関係していることなのだ。

日本の80年代半ばの金融自由化→バブル経済(マネーの流入)→その崩壊(マネーの流出)→それに続くさらなる自由化(規制緩和・構造改革)という流れも、このサイクルに当てはまる。要するに今日本でフリーターが増加して貧富の格差が拡大している原因も、結局は我々の知らないうちに流れ込んでは去っていったマネーのせいでもあるわけだ。

そしてリーマンショックから発生した世界金融危機の原因の一端も、日本のバブル崩壊とアジア通貨危機で引き上げられたマネーがアメリカに流れ込んで、住宅バブルにつながったことにあるのだ(註6)。


つまり金融の自由化=グローバル化によって、世界中を投資マネーが儲けを求めて駆け巡るようになった結果、世界の経済はすぐにバブルを起こしては崩壊するという不安定な状態を強いられている。

金融危機後は、さすがにこのマネーの流れを規制しようという風潮が芽生えてはいるが(註7)、有効な策が取られているわけではなく(日本などはまだまだ金融自由化を進めようとしている)、今このマネーは性懲りもなく中国へ、中国へと向かっているようだ。
「自由化=グローバル化」(註8)はモノとカネの動きを自由にするが、この過剰なカネの動きは、モノの動き=貿易よりもタチの悪い影響を我々に及ぼすと言える。

では、こんなマネーゲームの被害者である大多数の我々には何ができるんだろうか? 自分はやらない、地域通貨を使うようにする(註9)、なんてことだけでは防ぎようがないこういう問題には、やはり「反対する」のが一番だと思う(註10)。


(註1)投資家から私的に資金を集めて、その巨額のマネーを為替や株に運用し、増やして返すことを目的とする会社。

(註2)株でも通貨でも、普通の儲けの手口は、安い時に買って後で高くなった時に売るものだが、これはあらかじめ安くなることを見越して、高い時に売っておいて、安くなった時に買い戻すという、下がる局面を利用した儲け方。

(註3)ここでは、普通にモノやサービスのやり取りに使われるるカネと区別するため、利ざやを稼ぐために貸したり、右から左に移したりされるカネを「マネー」と呼ぶ。

(註4)ここでどの国でも一様に、「失われた10年」のようなものを経験する。ここで失業や就職難に見舞われた人々の人生がボロボロになったりする。

(註5)そしてまた潮時を見計らってマネーが流入してくる、というサイクルを繰り返すことになる。こうしてアルゼンチンは、80年代と00年代の2度にわたって経済破綻した。

(註6)参考:『金融大崩壊』(水野和夫、NHK出版、08年)

(註7)財政破綻寸前まで追い込まれたギリシャの首相も、その原因に“投機筋の金融取引”を挙げている。⇒ギリシャ首相:米国務長官と会見 金融規制改革を求める(毎日)

(註8)言葉を変えれば、「新自由主義的グローバリゼーション」。

(註9)ただ、今のような時には特に、自分のカネがどこに行くのかを考えるのは大事。ここには儲かってほしいと思う店で、集中的にカネを使うべき。

(註10)attacという世界的な組織が呼びかける「トービン税」「国際連帯税」の導入は、その最も具体的な提案。⇒トービン税ってなに? attac京都

参考&推薦文献:『悪夢のサイクルーーネオリベラリズム循環』(内橋克人、文藝春秋、06年)、他

図上:アジア経済危機に見舞われた地域。図下:タイの首都・バンコクでは、建設中にアジア通貨危機に見舞われ、そのまま放置された高層ビルが今も建ち並んでいる。

ちなみに宮下公園では、勝手に着工させないための監視が引き続き行なわれている。これだけ多くの人が真剣に訴えてるんだから、ナイキも渋谷区もせめて真面目に耳を傾けてもらいたい。