「借金」は植民地支配の道具である

live8 bob geldof.jpg05年にボブ・ゲルドフ(註1)は、イギリスで開かれるG8に対して、アフリカ(註2)の債務帳消しを要求する“ライヴ8(エイト)”というコンサートを、G8主催国の8カ国で同時に開いた(註3)。この上なく豪華な出演者たちのライヴが、インターネットで世界同時生中継されるのを驚きながら見た。

けれどもこれは、彼が85年に開催した“ライヴ・エイド”(註4)のようなチャリティー・コンサートではなかった。このイベントで集めたのは、カネではなく署名だったのだ。

なぜなら、ライヴ・エイドで集めた募金280億円は、当時アフリカが返済している借金のほんの1週間分でしかなかったからだ(註5)。どれだけアフリカにカネを渡しても、それは借金の返済として、あっという間に「北」の国々に戻ってしまう。アフリカの借金を無くさなければ貧困は解決しないという、構造の問題に一歩迫ったのだ。

今や世界的に、カネは「北」から「南」に流れているのでない。その逆だ。「南」は資源や換金作物の輸出でせっかく稼いだカネを、巨額の利子とともに「北」に返しているのだ(註6)。

そして世界でも最も“貧しく”、借金の多い国に一番カネを貸しているのは日本だ。


live8 berlin.jpgではなぜアフリカをはじめ、「南」の国々は、借金漬けになったのか? 

第二次大戦後、アジアやアフリカでは多くの植民地が政治的に独立した。国は企業や個人と違って、破産できないことになっている。そこで、「北」の国々、「北」の民間銀行、IMF・世界銀行などの国際機関が、返せるかどうかも二の次にカネを貸しまくった。

60年代には、ヨーロッパの銀行に溢れていたドル(ユーロ・ダラー)が、70年代には石油の値上げ(「北」から見れば“オイル・ショック”)で産油国が儲けたカネ(オイル・ダラー)が、「北」の銀行に預けられ、「南」の国々に貸し付けられた。またオイル・ショックで不況になった「北」の国々の産業が、国内での需要が見込めなくなり、「南」に進出しようとして、援助と称して行なった貸し付けも大きかった。

こうして80年代には、「南」の国々全体で借金が返せなくなる「債務危機」が起き、90年代にはアフリカでまた同じ危機が起きた(註7)。


けれどもこれらの借金は、ほとんど「南」の人々のためにはならなかった。その巨額のカネで道路、ダム、発電所、鉄道、等々を作ったとしても、それらは資源を掘り出して世界市場へ送り出すためのものか、あるいはほとんど役に立たない大規模工事で、工事を受注した「北」の大企業を儲けさせた。あるいは単に、国の権力者の懐に入っただけのカネも多かった。

それなのに、医療費、教育費などの社会福祉を削られながら、借金の返済をさせられるのは、もちろん「南」の人々なのだ。


live8 bono.jpgそれにしてもどうして、貸しすぎになるほど北の国々はカネを貸すのか? チャリティー精神からか?

「援助」「投資」などと言うと聞こえはいいが、当面は使わないカネを利子をつけて貸し出し、カネにカネを稼がせるのは、基本的なカネ儲けの手段だからだ。カネ貸しを生業にしている銀行などは、カネを貸す相手を探しまくり、「カネを貸すのははいいことだ」と吹聴している。

結局こうした“借金”は、“武力”で「南」を支配できなくなった「北」の国々が、植民地支配を続ける道具になっている(註8)。


そしてさらに気になるのは、個人も企業も国も、借金がある限りカネを稼ぎ続けなければならないことだ。これが、無意味な経済成長をやめられない原因になっているかもしれない。

「南」の人々が「北」の奴隷だと言えるなら、ヒトは今や「借金」の奴隷だとも言える。


(註1)元・ブームタウン・ラッツ。アフリカ貧困救済の活動を積極的にやっている。

(註2)ここで言う「アフリカ」とは、サハラ砂漠以南の国々を指す。

(註3)ポール・マッカートニー、U2、スティング、マドンナ(以上イギリス)、スティービー・ワンダー(アメリカ)、グリーン・デイ(イタリア)、ビョーク(日本)等々が出演したが、有名ミュージシャンの名前は挙げていたら切りがない(が、セレブ色も濃かった)。⇒ライヴ8HP

(註4)ロック史上最大のチャリティー・コンサート。イギリスとアメリカの二会場から、これもまた当時あまりにも有名なロック・ミュージシャンが出演し、テレビで世界同時生中継された。

(註5)今なら4日分にしかならない。つまり、アフリカの返済金額は、ますます増えている。ただし、ここで重要なのは、借金の額そのものの大きさよりも、その国のGDPや収入(つまり、返済能力)に対して、返済金額が大きすぎることである。

(註6)アフリカは70年から02年までに、5400億ドルを借りて、元本を超える5500億ドルを返したが、まだ300億ドルの借金が残っている。

(註7)借金が返せなくなると、IMFが出てきて資金援助と政策提言をするが、それは、それでもなお借金を返させるためのものなのだ。

(註8)今でもこの経済的支配は、様々な形で続けられ、最近の流行は、北の企業が請け負って「南」に原発を作らせることだ。 ⇒ 政府、ベトナム原発に低利融資 (日本経済新聞)

参考:280億円はたったの4日分にすぎない(アジア太平洋資料センターの出したパンフレットだが、ネット上で読める)

『世界の貧困をなくすための50の質問』(ダミアン・ミレー他著、つげ書房新社、他

写真上は、ライヴ8で拳を突き上げボブ・ゲルドフ。中はベルリン会場。ここにいる人々も、一応みんな反G8だ。下はイベント開催の中心人物の一人、U2のボノ。