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日本の南西端に近い西表島は、今エコ・ツアーで人気上昇中のスポットだ。海(サンゴ礁)と干潟(マングローブ)と山(亜熱帯林)の生態系がなだらかにつながっていて、地球生態系のコンパクトなショーケースみたいだ。
自分が行った場所のなかでも、かなり好きなほうではある。
ならば西表は、手つかずの自然が残る、秘境で楽園な島なのか? 違う!
西表島がヒトでもっともにぎわったのは、実は1930~40年代頃の「石炭ラッシュ」の時なのだ。
この島は古い地層が隆起してできていて、1500万年前の石炭層が露出している。それに目をつけた炭鉱会社と、甘い言葉につられてやってきた坑夫たちが、亜熱帯林のなかに一大炭坑村を作りあげ、当時の人口は今をはるかにしのいでいた。
そして、彼らの多くは重労働とマラリアと、とどめの戦争で、島から逃げ出すこともできずに死んだのだ。
当時の新聞によると、楽園どころか、「孤島の生地獄」だったそうだ。
炭坑跡地に行ってみたら、廃墟はわずか半世紀の間に亜熱帯植物で完全に覆われていた。足元にはジャリジャリと真っ黒い石炭がある。坑夫たちの死体も、供養されずに埋まっているはずだ。石炭さえなければ、この島もこんな歴史を持たずにすんだのにと思うと、ため息が出た。
ヒトはなぜか、地下資源に群がる生き物だ。
金、銀、銅、ダイヤモンド……もそうだが、なかでも、石炭、石油、ウランあたりの「燃料」は、ヒト界の国際政治を今も左右している。
もともと、地下に埋まっているエネルギー源を、競って掘り出さなきゃやっていけない生物であることがどうかしてるんだがなぁ。
それはそれで、自然界に翻弄されているとも言えるわけだが。