就職氷河期の原因は「大卒者が増えたから」

これは言っておいたほうがいいと思っていたことがある。
就職氷河期世代とかロストジェネレーションに関する「あること」だ。

去年7月に出版された小熊英二氏の『日本社会のしくみ』という本で、こんなことが強調されている。

1)正社員の数は、バブル崩壊前も後も、今に至るまでほぼ一定である。
2)90年代から正社員に就職できない大卒者が増えたのは、大卒者の数が増えたからだ。
3)90年代から非正規雇用の数が増えていったのは、自営業者が非正規に転じたからだ(雇用される人が増え、それらの人が非正規雇用になった)。

正規数.jpgこれが詳細なデータとともに示されていて、十分な説得力がある。このことは第一章の主旨となっていて、本のなかでも特に強調されていることと言える。(1については、業種によっては正社員を減らし、非正規を増やした部門も一部にあると書かれている。2については単に人口が多かっただけでなく、大学数の増加も大きい)。
これらのことは、個別にはしばしば取り上げられていた。けれどもこうして、まとめて体系的に説明されたことはなかったように思う。

これを知って仰天する人は多いのではないか。

もちろん、前後の時代より「正社員になりたかったのになれなかった人」がたくさん出て、大変だったことに変わりはない。だから文句を言っていいし、賃金を上げるよう要求していい。余力があるなら正社員化も必要。同一労働同一賃金は当たり前だ。
これが非正規雇用の問題そのものだ。

では何が違ったのか?
そこから広がっていった面白い尾ひれの部分、時代論・世代論のようなものが違っていた。

就職氷河期世代・ロストジェネレーションが苦しんだのはバブル崩壊のせいだ。バブル崩壊後の地獄のような社会の冷酷さに痛めつけられた、最も不幸な世代だ。そんな解釈は、ある程度「根本的に」違っていた。
大卒者の人数が多かったせいなのだから。
そこから来る、バブル崩壊前は天国だった、といった短絡的な歴史観も歪んでいた。それらから最終的に導かれた、「この不幸は上の世代のせいだ」も違った。

ただ「弱者切り捨ての冷酷な社会のせいで不幸になった」という論については、大変だった世代への支援をしなかったのだから、原因としては違っていても、そう言える側面はある。

31wl9XvoDYL._SX305_BO1,204,203,200_.jpg「ロストジェネレーション」は07年から朝日新聞が広めはじめた言葉だ。マスコミとしては話が面白いほうがいい。「人数が多かったから」ではつまらない。世代間対立も盛り上がったほうが、断然面白い。今あるイメージの定着には、そのことが大きな役割を果たしただろう。


そして「原因と結果」の問題についても考える。
あることがなぜ起きたのか、原因と結果の関係について少しでも正確に推論できるように、我々は様々なことを子供のころから学ぶのだ。
あることが起きたのを、大雑把に「〇〇のせい」と決めつけて、「そのほうが都合がいいからいいだろう」と押しとおしたとする。一時的にはそれでもいいのかもしれない。けれども長い目で見れば、そんなことがうまく行くわけがないのだ。
「嘘」だからだ。
嘘でうまく行くわけがない。

ちなみに「大げさ」だって本当はだめなのだ。「死ねと言うのか」とか。

自戒も込めて。


※図は厚生労働省「「非正規雇用」の現状と課題」より。本にも引用されている。
この図では、正社員数はバブル崩壊後に増えている。

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