「自殺のマニュアル本」に関する新聞記事について

DSC_0683 (2) ぼ2.JPG6月の上旬に写真のような記事が、いくつかの地方紙の夕刊に掲載された。
これは共同通信が配信した記事だ。
名古屋で去年、集団自殺未遂事件が起きた。ネットで仲間を募り集団自殺を試みて、ひとりが亡くなった事件で、直前に「自殺のマニュアル本」を読んでいたという。

ただし記事にはこう書かれている。
「『四人で集まった時点で、それぞれ死ぬ意志は強固だった。本があったから自殺を考えたわけではない』とも話した。公判の被告人質問でも同様の説明をした」
中心となった男性(判決は執行猶予)がこう言ったという。

方法はというと、ある薬とビニール袋を頭に被せるのを組み合わせた方法だった。
自著『完全自殺マニュアル』にはビニール袋と紐を首にかけるなど、4つもの手段を複雑に組み合わせた方法を、変わった事例として載せている。その袋のところだけ参考にして、あわせて飲んだ薬などは当人たちが考えたそうだ。
つまり方法においても、それほど参考にはなっていないのだ。

けれどもこのような見出しがついてしまった。
元の事実がこの程度でも、このくらいの報道はできてしまうということだ。
わざわざ本人が本のせいではないと言っているのに。


残念ながら自ら命を断つ人のなかには、この本を読んで方法を確認する人はいる。
それをこの記事の見出しのように、本のせいで自殺したかのように印象付けることができる。
この本はこういうやりかたで何度か、あたかも本のせいであるかのように言われてしまった。

死を選ぶ人には、死にたくなった理由がある。
その人は、直前に教師に怒られて傷ついたかもしれないし、信頼していた友だちに無下にされて落ち込んだかもしれない。けれどもそれだけとらえて、その人のせいで死んだかのような報道をしてはならない。
そのように言うためには、現在でも慎重な検証を待たねばならない。
本についても同じではないか。


『完全自殺マニュアル』が売れていたのは、発売した93年と94年の二年間で、どちらの年も一般書の年間売り上げのベストテンに入るくらいの売れ行きだった。それ以降の年とは比較にならない。
そしてその2年間に、それまで増えていた日本の自殺者数は2年連続で減った
つまり「いざとなったら死ねばいいと思って気楽に生きよう」という本が売れて、自殺者が減ったということだ。
こうした本は、有名人の自殺報道などとは違う。
このことはこの記者も知っていたのだが、、、。


最後にこれまでにも言ってきたことだが、蛇足ながら。
この記事も彼らが死にたくなった原因を追求して、そこに強く反対すれば、世の中ももう少し生きやすくなるのにと思ってしまう。
もちろん数字として自殺者数を減らそうとする、支援などの活動は大事だ。けれども死にたいほどつらい人が、自殺をしなければそれでよしとは言えない。様々な生きづらさをなくして、死にたくならない世の中にすることが、本来の自殺対策だと思っている。


この記事には取材に関する自分の言葉が少しだけ載っている。それは記者とのたくさんのやり取りのなかから、ごく一部を勝手に抜粋して掲載されたものだ。
こちらの承諾もなく新聞に自分の発言が載ったのは初めてのことだ。
そういうことは週刊誌なんかでやるものだと思っていた。

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