いつから水を買うようになったのか?

mizu.bmp「水を買う」──水に恵まれ、水道水も安全に飲め、その味の評判もいいこの国で、なぜこんな習慣が広まっているのか?

例えば、エビアンやボルヴィックといった銘柄の水(ミネラルウォーター)を飲む場合、わざわざフランスから水を輸入して飲んでいることになる。こんなものを飲むのをやめて水道水を飲むだけで、どれだけの自分のカネと、ペットボトルの原材料になり輸送にも使われる石油と、労働力の節約になるか知れない(水道水なら、5リットル飲んでも1円にも満たないほどの料金である)。

だというのにこの国は、06年には約55万キロリットル、1リットルのペットボトルにして5億本以上の水を輸入してしまっている。


一般の日本人が水を買って飲むという習慣は、83年より前にはなかった。なぜ83年なのかというと、その年に初の一般向けミネラルウォーター『六甲のおいしい水』がハウス食品から、カレーを食べる時に飲む水用に発売されたからだ(確かに以前は、日本人もカレーの時は珍しく食事中に水を飲むと言われていたように思う)。*)

89~90年には、ミネラルウォーター市場にサントリーやキリンの子会社が参入し、一般向けの水の消費量は、ようやく業務用を上回る。
また90年代にはエビアンのボトルを首からぶら下げる“ボトルホルダー”なんてものまで注目されてしまい、若者が街でミネラルウォーターを飲むのがカッコイイかのような宣伝がなされ、輸入水のシェアが大きく伸びてしまう。
こうしてミネラルウォーターは着実に生産量を伸ばし、今では年間250万キロリットル以上を生産・輸入し、清涼飲料の13パーセント以上を占めるに至っている。

駅から水飲み場がすっかり撤去されてしまった後、06年に「JR東日本ウォーター・ビジネス」なんていうミネラルウォーターをはじめとする清涼飲料を売る専門の会社も設立された、なんてことも非常に示唆に富む。


こうして見ると、ここ20年か30年くらいの間に、大企業は水をカネ儲けの道具にしはじめたことがわかってくる。
この「水の商品化」は、注目すべき世界的な傾向でもある。アメリカでは、日本に先駆けて、70年代からミネラルウォーターの生産が伸びているが、今1、2位を占めるペプシとコカコーラ社の製品は、水道水を浄化したものにすぎないのだ。
我々はもともと買う必要もない「単なる水」を、まんまと買わされている。
そしてこうした大企業が狙っているのは、水に限らず、「コモンズ(共有財産)」全般の商品化なのだ。(続く)


*)
 ウーロン茶や紅茶、スポーツドリンクといった、“限りなく水に近い”清涼飲料が本格的に発売されたのも80年代からで、緑茶に至っては90年代からである(ペットボトル入り清涼飲料が登場したのは82年だった)。

参考:

ミネラルウォーター類 国内生産、輸入の推移(日本ミネラルウォーター協会)

http://www.minekyo.jp/07-1n.pdf
日本のミネラルウォーターの歴史(同)
http://www.minekyo.jp/rekisi.pdf
清涼飲料の50年(全国清涼飲料工業会)
http://www.j-sda.or.jp/annai/50nen/sokuseki.pdf
『ウォーター・ビジネス』 中村靖彦著、岩波新書、他