なぜタバコの輸入が増えるのか?

tobacco.gif日本は世界最大の、(製品としての)タバコ輸入国だ*)。
タバコの消費量も世界3位**)、喫煙率も世界5位***)という、世界でも特によくタバコを吸う国民でもある。
街のタバコ自販機を見ると、おびただしい数のブランド品が、各々「ライト」「スーパーライト」「エクストラ」「スリム」「ロング」だのと、際限なくシリーズ化されて売られている。あの種類の多さは確かに異常だ。
では、日本に輸入タバコが入ってきて、あんなに種類が増えたのはいつからなのかというと、そんなに古い話ではない。1984年以前には、輸入タバコのシェアは3%未満であり、ほとんどなかったとさえ言える。

日本は明治時代にタバコの国による専売制をしいて以来、世界で猛威をふるうグローバル・タバコ企業を退けてきた。
けれども1985年に、当時の中曽根内閣はタバコ市場の自由化をアメリカに求められて、専売公社を民営化し、「日本たばこ産業(株)=JT」を設立***)、90%だった関税も87年までには0%にしてしまった。この87年には、アメリカは紙巻タバコの全輸出量の94%を日本に向けているのだ。
これ以来、日本国内の農業における葉タバコの生産も、衰退の一途をたどり、今では輸入タバコの国内のシェアは3分の1を越えている。
グローバル経済のもたらす弊害が、ここに典型的に表れている。
またJTまでもが、今や海外のタバコ企業を買収する世界でも3番目に大きいグローバル・タバコ企業と化してしまっているのだ。


そもそも世界中のヒトが、タバコという植物の葉を燃やして煙を吸うようになったのもまた、それほど大昔の話ではない。
もともと「喫煙」は、コロンブスが15世紀末にアメリカ大陸からヨーロッパに持ち帰ったものだ。その後16世紀末頃から、ヨーロッパやイスラム、中国の商人によって広められ、17世紀半ばまでには日本も含めた世界中に伝わっていた(その拡大のスピードはコカコーラやリーバイスのジーンズよりも速かったと言う研究者さえいる)。
産業革命以降は、イギリスやアメリカのタバコ会社が目まぐるしい合併と吸収を繰り返しつつ、農民から葉タバコを買い叩いて巨大化し、アメリカやヨーロッパ市場の独占合戦を展開した。
20世紀に入ると、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社やフィリップモリス社などのグローバル・タバコ企業が台頭して、世界中をそのマーケットにするようになった。

そして今彼らは、タバコの健康への害が明らかになって成長が見込めなくなった欧米の市場から、まだその認識が甘く、タバコの消費量が伸びている地域、特にアジアへとその矛先を向けている。日本への輸出増大も、その傾向の表れなのだ。
「自分たちは健康によくないものを売っている」と認めながらも、売上げを落とすわけにはいかない。それが企業精神というものだ。
喫煙者であれ非喫煙者であれ(自分は前者だが…)、我々は確かにそのとばっちりを食っている。


*)WHO報告、2002年。
**)消費量1位は中国、2位はアメリカ。WHO報告、2002年。
***)1位から順に、ギリシア、トルコ、オランダ、ハンガリー、日本。OECD報告、2007年
****)中曽根内閣は、専売公社だけでなく、電信電話公社(現・NTT)、国有鉄道(現・JR)の3公社をすべて民営化するという大構造改革をやった。

参考:
『タバコの世界史』 J・グッドマン著、和田光弘他訳、平凡社
『タバコの歴史』 上野堅實著、大修館書店
The Tobacco Atlas WHO http://www.who.int/tobacco/statistics/tobacco_atlas/en/ 他

図は、HP「たばこと健康」厚生労働省 http://www.health-net.or.jp/tobacco/menu02.html より