マクドナルドはなぜダメなのか?

アルゼンチン ブエノスアイレス 2003年.jpgある調査によると、日本人が一年間に外食する回数は、ひとりあたり198回で、アメリカを抜いて世界一多かった。1) 
世界一自分の食事を自分で作らない国民というのもマズイが、同じくマズイことに世界最大の外食チェーンであるマクドナルドの店舗数では、日本は本国アメリカに次いで第2位で、3位以下を大きく引き離してしまっている。つまり日本は世界最大のマクドナルドの輸入国になっているわけだ。2)
もともとハンバーガーはどこの国の伝統料理でもないが、パンに焼いた牛肉をはさむという日本の伝統料理からはほど遠い(もちろんほぼ全ての材料を輸入に頼っている)この料理が、なぜ、いつから我々日本人の腹に詰め込まれるようになったのか?

日本のマクドナルド1号店ができたのは1971年で、その前年にはケンタッキー・フライド・チキンの、翌72年にはモスバーガーとロッテリアの1号店もオープンしている。
70年はその業界では「外食元年」と呼ばれる年で、69年の「第2次資本自由化」によって、レストラン事業の外国資本の参入が100%自由化された影響が大きかった。3)
ここから日本人は少しずつ、外食を、それもファストフード店で外食をするようになっていった。それ以前はこういうものがなくても、人々は普通に生きていたわけだ。
この後日本の企業も、牛丼や回転寿司なども含め、マクドナルドを真似た営業形態、チェーン展開等々を始めるようなり、「飲食店のマクドナルド化」が進んでいく。3)

マクドナルドはレストランとは言っても、皿もナイフもフォークもコップも、一切の食器がないので、上げ下げしたり食器を洗ったりする必要がない(その代わりに夥しい紙を浪費する)。腕のいいコックもウエイトレスもいない。人件費節約のため、そういうふうにレストランを改造したのが、マクドナルドのアメリカ第1号店だったのだ。
そこで料理人がやっているのは、実は料理ではなく、工場で行なわれる単純な組立作業に近い。ハンバーガーを作るには、肉を焼き、玉ねぎとピクルス、ケチャップとマスタードを加え、パンではさむ。これらの作業は徹底的にマニュアル化され、世界中どこに行っても同じ製品は同じ分量の材料、同じ味で作られる。ここに初めて工場の原理が、飲食店に応用された。4)
こうした画一化、単純化、合理化、数量化、計算化、制御……をもって初めて、マクドナルドは世界に展開できたのだ。
さらにこうしたシステムは、雇用形態まで含めて、社会全体に浸透していき、より由々しい「社会のマクドナルド化」5) を進めてしまう。


とは言っても、マクドナルドをそんなに過大評価する必要もない。6) マクドナルドもファストフードも、2000年代には健康志向の反発にあって世界的に伸び悩んでいる。
マクドナルドはある種の象徴なのだ。例えば、ドルという通貨、英語という言語、ウィンドウズというパソコンのOS……等々、単一のもので世界を覆いつくそうとする勢力のなかでも最もわかりやすい例なのだ。グローバリゼーションのシンボルと言ってもいい。

こうしたファストフード化に、と言うよりもっと広く「社会のマクドナルド化」に対抗する運動のひとつが「スローフード運動」だ。

これはもともとは、ローマにマクドナルドがオープンしたのをきっかけにイタリアで始まった運動で7)、その地域地域にある多様な食材を多様に料理して、多様な味を、ゆっくりと楽しもうと、そして農家と消費者とをつなげながら農業を守り、ひいては文化や生物の多様性を維持しようとしている。
つまり、食べ物を通して社会全体を本来自然界がそうである通りの姿に戻そうとしているわけだ。8)

本来生物界は多様であることをよしとしている。
日本にマクドナルドを広めた張本人である藤田田(ふじた・でん)元日本マクドナルド社社長は「勝てば官軍」「優勝劣敗」といった言葉を好んだが、優れた生物種なんてものがあるとしたら、それは環境の変化に柔軟に対応できて、一度に全滅してしまわずに生き残れる、多様な遺伝子を持った生物種なのだ。

まあそこまで考えなくても、単に自分の好きなように、(なるべく国内産の材料で)自分のメシを作って食べるだけでも、立派に反グローバル経済運動なわけだし、さらに言えば、スピーディにテキパキと画一化するのが嫌いだったり苦手だったりする人、そうすることが偉いとされる社会が居心地悪い人は、十分にスロー系であり、反ファスト、反マクドナルドなんだと思う。



1)
『食料の世界地図』 エリック・ミルストーン他著、大賀圭治他訳、丸善、より。2位アメリカ、3位イギリス、4位ドイツ、5位フランスとなっている。
2) 3位以下は、カナダ、ドイツ、イギリス、フランス、オーストラリア、中国……と続く(2004年の資料より)。
3) 外国産のものが入ってきた経緯を調べてみると、いつもこの「自由化政策」に行き当たる。つまり、我々が求めたから入ってきたわけではないのだ。
4) 参考:『ファストフードが世界を食い尽くす』 (原題“Fast Food Nation”)エリック・シュローサー著、楡井浩一訳、草思社)
5) 参考:『マクドナルド化する社会』 ジョージ・リッツア著、正岡寛司監訳、早稲田大学出版部。著者が提唱する有名な「マクドナルド化」の4要素は、効率性、計算可能性、予測可能性、制御、である。
6) 日本でマクドナルドが“小僧寿し”を抜いて業界第1位になったのは、日本進出から10年以上もたった82年のことだったりする。
7) 日本では考えられないことだが、ヨーロッパではマクドナルドの出店に対して大規模な反対運動が起きる。フランスではジョゼ・ボヴェを中心とする農民の反対運動が有名で、『地球は売り物じゃない!-─ジャンクフードと闘う農民たち─』(ジョゼ・ボヴェ他著)という本に詳しい。
8) スローフードジャパン http://www.slowfoodjapan.net/about_sf/illust.html

写真は、南米・アルゼンチンの首都ブエノスアイレスのマクドナルド前で、デモの人がアメリカ人人形を焼いているという日本では考えられない光景。