2008年04月30日

自動販売機というムダ

広告用画面のある自販機.jpg自動販売機設置台数と一台あたり人口数.gif「缶コーヒーを飲用する習慣は、日本特有のものといえると思いますが、自動販売機の存在なしではここまで市場として成長しなかったのではないでしょうか。清涼飲料、特に缶コーヒーの自販機もまた海外ではほとんど見られない日本だけの販売手段です。じつは、缶コーヒーの7割は自販機で購入されています。日本の缶コーヒー市場は、日本独特の自販機という販売手段があったからこそ、これだけ大きくなったのだと思います」 

缶コーヒーを飲む習慣が日本にしかなかったのにも驚くし、その中身や容器の原材料であるコーヒー豆やアルミニウムや鉄がどこでどんなふうに作られ採られて、はるばる運ばれ、ここでひとつの缶コーヒーになっているのかを思うと、そのムダさ加減に気が遠くなるようだが、とりあえずその問題は置いておく。
より嫌なのは、その缶コーヒーの存在基盤となっているらしい「自動販売機」だ。地球環境のことに言及するまでもなく、わざわざ飲み物やタバコを売っている店の前に並んでいるのを見ただけでも、ムダに多いことが明らかなこの自販機。一体誰がこんなに増やしたのか?

自動販売機は日本に約508万台もあって、台数ではアメリカに次ぐ数字だ。けれども、25人に一台という割合も年間約5兆円強という売上げも世界一である。5兆円強というと、国内の百貨店全体の売上に迫っているという驚くべき額だ。
しかも、治安の関係でアメリカでは外にある自販機は少ない。つまり、こんなに街頭に自販機が置いてあるのは日本だけなのだ。
なかでも飲料の自販機は260万台と最も多く、その一年間の電気代は全自販機の90パーセントを占め、原発1基分の年間発電量に相当してしまう。

ちなみに飲料自販機を一番普及させてきたのは、現在100万台近くを設置しているコカ・コーラ社だ。この会社は、コーラ飲料の原料輸入が完全自由化された1961年の翌年に、国内ではじめての瓶詰め飲料自販機の設置を開始。以後、自販機を販売道具として積極的に活用し、日本での自販機の普及に貢献してきていて、今でも自販機への依存率が高いことで知られる。あの真っ赤なコカ・コーラの自販機は、この会社のグローバル戦略の日本基地みたいなもので、マクドナルドのMマーク“黄金のアーチ”に相当する。

「こんなにたくさんあるのは日本だけ」ということは、そんなものはある程度「なくてもいい」ということなのに、なぜ飲料自販機は減らないのか?

それは日本の飲料メーカーがすでに自動販売機に依存してしまっているからだ2)。飲料自販機は年間3兆円も稼いでくれる、メーカーにとって不可欠な直売店舗なのだ。
しかも仮に元が取れない自販機であっても、目立っていさえすれば、それ自体が広告塔の役目を果たしてくれる。
だからこそ、飲料メーカーやその下請けの自販機会社は、スペースの提供者に電気代だけ負担してもらって、売上げの一部を渡し、あとの補充や空き容器の始末等はすべて面倒をみるという日本独自の戦略を取ってまで自販機を置いてもらおうと励んできた。
自販機が「飽和状態」にあると言われている(つまり「もう置くところがない」)今となっては、他社のスペースを奪い合ってまで、「環境に優しい自販機」や「社会貢献する自販機」、さらには「景観を損なわない自販機」まで次々と開発して、自販機での販売ルートに固執している。3)


こういうことを調べていて思い知るのは、企業側の商品を売るための尋常でない熱心さだ。

本当に地球環境のことを考えているのであれば、単に自販機や商品アイテム数を減らしていけばいいのだ。そうすることが求められているのだし、一番簡単なやりかたであるはずなんだが、企業というやつはその定義からして「営利を目的としている」から3)、そもそも儲けを減らすなんていう方向では考えないらしい。

企業を動かしてる人は、そうやって売り買いが盛んになって、企業が儲かって、経済が成長すれば、そのカネが人々にまわって、みんなが食べていけるようになる、などと都合のいいことを考えているのかもしれない。ここまで企業が幅をきかせた社会では、それが道理であるような気もしてくる。
けれども実際には景気なんかよくなっても、そのカネは一部の人にしかまわっていない。そもそもみんなが食べていくためにムダなものを作り続けなければならないのなら、何かがおかしいのだ。本来は、食べていくためには、缶コーヒーを作って自販機で売るのではなく、単に食べ物を作ればよかったんじゃないのか?4)
我々の人生がこんなに空しいのは、こんなムダな生産や消費をして生きていくしかないこの社会のせいでもあるはずだ。



1)
サントリーの飲料開発設計部員の発言。『サントリーー知られざる研究開発力』(秋場良宣著、ダイヤモンド社)より。

2) ちなみに、飲料業界では「せんみつ」という言い回しがあって、「1000に3つくらいしか残る新製品はない」という意味。飲料の商品アイテム数が格段に多いことも日本の特徴で、この傾向もひとつには自販機の品揃えを充実させる必要性から来ている。また缶コーヒー市場は今や、清涼飲料業界最大の市場になっている。

3) 辞書(大辞泉)には、「【企業】 営利を目的として、継続的に生産・販売・サービスなどの経済活動を営む組織体。また、その事業。資本主義経済のもとでは、ふつう、私企業をさす。とある。

4) 少なくとも国全体としては、カネで食べ物を海外から買うのではなく、自分たちで作る方向に向けていかなきゃならないことは確かだ。

参考:

『自動販売機の文化史』 鷲巣力著、集英社新書
『逆欠如の日本生活文化―日本にあるものは世界にあるか』 園田英弘編著、思文閣出版
『自販機の時代―“7兆円の売り子”を育てた男たちの話』 鈴木隆著、日本経済新聞出版社

日本自動販売機工業会  http://www.jvma.or.jp/ 

飲料自販機な・る・ほ・どBOOK!(企業側の宣伝用パンフレット)
http://www.jvma.or.jp/information/naruhodo.pdf 他


図左は、自動販売機設置台数の推移と、一台あたりの人口数の推移(平成18年版『環境白書』環境省編より)

http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h18/html/kh0601010100.html

図右は、広告映像を流す液晶画面付きの、まさに広告塔としての、バカげたコカ・コーラの自販機

posted by 鶴見済 at 22:48| 人間界の経済 | 更新情報をチェックする