2006年12月03日

書評:『西表炭坑写真集』

iriomote.jpg書評:『西表炭坑写真集』(三木健編著 ニライ社)

  
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日本の南西端に近い西表島は、今エコ・ツアーで人気上昇中のスポットだ。海(サンゴ礁)と干潟(マングローブ)と山(亜熱帯林)の生態系がなだらかにつながっていて、地球生態系のコンパクトなショーケースみたいだ。
自分が行った場所のなかでも、かなり好きなほうではある。

ならば西表は、手つかずの自然が残る、秘境で楽園な島なのか? 違う!

西表島がヒトでもっともにぎわったのは、実は1930〜40年代頃の「石炭ラッシュ」の時なのだ。
この島は古い地層が隆起してできていて、1500万年前の石炭層が露出している。それに目をつけた炭鉱会社と、甘い言葉につられてやってきた坑夫たちが、亜熱帯林のなかに一大炭坑村を作りあげ、当時の人口は今をはるかにしのいでいた。

そして、彼らの多くは重労働とマラリアと、とどめの戦争で、島から逃げ出すこともできずに死んだのだ。
当時の新聞によると、楽園どころか、「孤島の生地獄」だったそうだ。

炭坑跡地に行ってみたら、廃墟はわずか半世紀の間に亜熱帯植物で完全に覆われていた。足元にはジャリジャリと真っ黒い石炭がある。坑夫たちの死体も、供養されずに埋まっているはずだ。石炭さえなければ、この島もこんな歴史を持たずにすんだのにと思うと、ため息が出た。

ヒトはなぜか、地下資源に群がる生き物だ。
金、銀、銅、ダイヤモンド……もそうだが、なかでも、石炭、石油、ウランあたりの「燃料」は、ヒト界の国際政治を今も左右している。
もともと、地下に埋まっているエネルギー源を、競って掘り出さなきゃやっていけない生物であることがどうかしてるんだがなぁ。
それはそれで、自然界に翻弄されているとも言えるわけだが。

ラベル:西表島
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2006年11月28日

書評:『社会学入門』

?w.jpg書評:『社会学入門ーー人間と社会の未来』(見田宗介著 岩波新書)

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全体を一度に言うのは無理なので、とりあえずこの本の白眉と言える、第六章『人間と社会の未来』についてだけ。

ヒトという生物種にとって、近代という時代は、その個体数の増え方から見て、爆発的な繁殖期だった。そして今は、その人口増加の時期を少し過ぎて、横ばいになりかかっているという。
どんな生物でも、その適応できる範囲一杯に広がってしまったら、無限に繁殖し続けるのではなく、あとはこうして増加を減らしていくそうだ。
つまり自分たちは、人類史上においても、無限に成長していく夢が破れた、かなりしょぼくれた時代に生まれついてしまったというわけだ。

こういう人間社会の重要な問題を、生物学的な(つまり絶対的な)根拠をもって説明してしまうところが、他の人には真似できないところだ。

そしてこうした人間の歴史は、1原始社会、2文明社会、3近代社会、4現代社会、そして5未来社会の5段階に分けられ、我々現代人は、それらの各段階に対応して、0生命性、1人間性、2文明性、3近代性、4現代性の五層構造を持っているという。つまり自分のなかには、生物としての自分、人間としての自分、文明人としての自分、近代人としての自分、現代人としての自分、がすべて生き続けているわけだ。
こういうふうに、「現代社会」や「現代人」を”重層的”にとらえることが、決定的に重要だとされる。
歴史は、それ以前のものをすべて否定した上にできるのではないのだ。

そして、我々の未来社会は、これらの層の上に築かれる。
それは「有限なものを無限なものであるように幻想することをとおして有限に終わるシステムではなく、有限なものを有限なものとして明視することをとおして無限に開かれたシステム」であるはずだという。それが「どのように思いがけない形態をとるものであっても」。
これは、人ひとりの人生にも当てはまるんじゃないかとも思ってしまった。


──と、一章だけに絞ってみても、やはり言い尽くせないわけだが。

自分たちの未来がシケているように感じるのにも、理由がないわけではないこと。今でも無限の成長の夢にしがみついている人のほうが、もはや時代にそぐわないのだということ。
あるいは、我々の理想的な未来社会を構想する時に、どれかひとつの段階をすべて否定したり、すべて肯定したりする必要はないこと……等々。

こういう、ホッとするような結論を導いてくれたりするところがまた、自分の精神衛生上よかったりもする。
ラベル:社会学
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2006年11月14日

書評:『海の帝国ーアジアをどう考えるか』

umino teikoku.jpg書評:『海の帝国ーーアジアをどう考えるか』 (白石隆著 中公新書) 

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実はこの本を読むまで、地球のメインの部分は「陸」であって、残りの「海」は余白のように思ってたかもしれない。
けれども、ヒトの主要な交通手段は、昔から「船」だったわけで(あとは馬とか)、列車や自動車、ましてや飛行機なんかが出てくるのは近代に入ってからだった(日本で空路の海外旅行が始まったのなんか、1970年代だ)。

そう思って世界地図を、海をメインにして白黒反転させて見ると、実に色々な「海上の道」(by柳田国男)とその港である大都市が浮かび上がってきて、面白かった。

この本の著者は、東南アジア研究の専門家である。
確かにインドネシアのような国の形は、海を中心に見てみないと、なぜそうなってるのかわからない。
そして、東南アジアも含む東アジアの臨海部(というかオセアニアも含む西太平洋)が、ひとつの大きな文化・交易圏となってきたことが説かれる。
(こんな風に、ヒトの文化圏も地球地理的に決まってしまうものなのだ。)

しかしその文化圏も、欧米列強によって半植民地化され、ここ50年はアメリカのヘゲモニー下にある。日本はその傘の下でbQとしてやってきたわけだ。では今後、アジアは、日本は、どうしたらいいのか?

著者によると、アメリカがアジアにおけるヘゲモニーを放棄することは、当分考えなくていい(そうでなければ中国が覇権を握ることになるが、それもまたありえない、と言う)。
そこで日本は、50年くらいの時間をかけて、(急にではなく)ゆっくりと「アジアの中の日本」に戻っていくのがいいとしている。

2000年に出版された本だが、今でも実に妥当な提案だ。
アメリカが現実的にヘゲモニーを手放さないからという理由だけで、それを認めてしまうのであるなら、それはおかしい。そんなことでは、いつまでもアジアの富をアメリカに持っていかれ続けるだけだからだ。
しかしこの著者は、そういった”理想像も持たない、行き当たりばったりの現実主義者”でもない。あまり反論の余地がないかもしれない。

しかし実際の日本は、より親米色を強めて、bQの地位を強化しようとしている。
こういうことだと、アジアの自立への道は一層険しい。日本のメリットにもならないはずだがなぁ。

ラベル:アジア
posted by 鶴見済 at 21:11| レヴュー | 更新情報をチェックする

2006年11月06日

書評:『スロー・イズ・ビューティフル』

slow is beutiful.jpg書評:『スロー・イズ・ビューティフルー遅さとしての文化』(辻信一、平凡社ライブラリー) 

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近代・現代社会の様々な問題点を、「スピードが速すぎる」というポイントに絞って、「遅くしていく」ことでそれらを解決しようと提案している本。
実にホッとする。まったくその通りだ。

「早くしろ! 急げ! 頑張れ!」とあおられるのにうんざりした人にとっての「人生論」としても、地球環境問題を憂えている人へのガイドとしても、幅広く支持されてると思う。

また、全編に散りばめられた環境問題的なデータ(例えば、”今やこの国は二三人に一台の割合で自販機をもつ自販機大国だ”、とか)は、気がつかなかったけれども、よくよく考えてみれば由々しいことばかりで、まるで広瀬隆氏の『危険な話』を読んだ時にも似た驚きを覚えた(実際に『危険な話』の時のように、この本を知人に紹介するという動きがあった気もする)。

戦争になりそうな時とか、「スローなんて言ってる場合じゃない」時期も世の中にはあるだろう(今がそうなのかもしれない)。
が、そのくらいのことでは否定されない、幅広く奥深い効果を、「スロー」という提案はも持っていると思う。

ラベル:スローライフ
posted by 鶴見済 at 11:38| レヴュー | 更新情報をチェックする

2006年10月31日

書評:『大日本帝国の時代』

daibnihonnteikoku.jpg書評:『大日本帝国の時代ー日本の歴史8』
      (由井正臣著 岩波ジュニア新書)

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あとがきに書かれている、
「そしてなによりも、二十世紀になってから、日本ほど長期にわたって侵略戦争を続けてきた国はほかにはありません。」
の一文を読んで、そうだよなぁと思った。
この国は、太平洋戦争だけでなく、日露戦争、韓国併合、日中戦争……と、半世紀にもわたって、ずーっと途切れなく、侵略戦争をやってきたんだった。確かにそんなことは、ナチスドイツだってやってない。
ここに書かれているのは、非常によくまとめられた、その詳細な記録。

戦場や空襲での悲惨な話だけでなく、国内(銃後)で起きていた忌々しい出来事もちゃんと書かれているところがいい。
”隣組”による相互監視や密告の強要。愛国婦人会に大政翼賛会。小学校が軍事教育しかしなくなったこと。敗戦の直前に、武器もないのに本気で準備された本土決戦「全軍刺し違え戦法」。そして敗戦直後には一転して「一億総懺悔」の強調……、等々。

地獄だな、と思う。マジで狂っている。こんなことが本当に起きるのか、と呆然とする。
日本の戦争についての入門書としては、ベストだと思う。 まずどこの図書館にも置いてあるので、借りて読める。
「ああ戦争は嫌だなぁ」と、つくづく思えてくる本。
ラベル:大東亜戦争
posted by 鶴見済 at 18:35| レヴュー | 更新情報をチェックする